高齢者の食事【精神的なケアや注意点を解説】

高齢者の食事【精神的なケアや注意点を解説】

こんにちは。社会福祉士・介護福祉士の笑和です。

人は加齢に伴い、身体的変化・精神的変化が訪れます。歳を取ると、これまでのように自力で食事を取ることが困難になったり、食事の量が減ったり、食事内容が偏ったりして、生活に影響が出ます。

この記事では、高齢者食事を関連付けて考え単に生きるための食事ではなく、安全に自分の力で楽しく食事ができるようにするために気をつけるべき点を説明します。

食事の目的と意義

野菜のカプセル

食事の目的と意義について以下で解説します。

目的

食事は、生命を維持するうえで最優先となる欲求です。ただ単に、生命を維持するために必要な栄養素を摂取するだけではなく、身体の健康を保ち、増進する目的があります。
生活を送るうえで毎日の営みであるため、その質や量が充分に満たされることが求められます。

生活の質的向上

単に食事をして毎日を生きるという目的だけでは、味気ないものになってしまいます。

やはり、人として毎日の食事を通して楽しみを感じながら、生活の質的向上につなげていくことが大切です。

また、気心の知れた友人らと食事を共にすることは、社会的活動であるといえます。加齢に伴って社会的活動が制限されたり、社会的役割を喪失したりと、社会的なステージから離れてしまいがちなので、これらの活動促進はとても重要です。

食事を楽しむこと

パーティ

食習慣・文化

日本には、季節に沿った旬の食材を食べ、味ばかりでなく、その形や色を見て楽しむという素晴らしい文化があります。また、季節によっては屋外で花等を愛でながら食事するという独特の食習慣・文化があります。

いずれも、これらの文化や習慣は、単に食事して栄養を摂るということだけではなく、食事自体を楽しむことに繋がるでしょう。

食事を楽しみ、人生を豊かに

同じお弁当を食べるのにしても、自宅で一人、暗いなかで食べるよりも、気候が良い環境のなかで、知り合いとお弁当を食べるだけで、食事が美味しく・楽しく感じます。「美味しいものを食べたい」や「楽しい食事をしたい」という欲求は、年齢や季節などは関係が無く、歳を重ねても持ち続けているものです。

公益社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会が平成28年3月に発表した「在宅高齢者の口から食べる楽しみの支援の在り方に関する調査研究事業 報告書」*1では、食事と楽しみの重要性について、次のように指摘しています。

「食べることの楽しみを継続することは、その人のQOL(Quality of life、生活の質・人生の質)の向上に寄与するものである」

自ら手を伸ばして食べたくなるように

私たち人間は、一人ひとり嗜好が違います。高齢者が食事を楽しむうえでは、本人の食事に関するADL(Activity of daily living:日常生活動作)を充分に理解するだけではなく、本人の食事に関する嗜好(好き嫌い等)を踏まえたうえで食事の準備を行うことが大切です。

これらの事項を充分に注意して、食材・食事の内容、食事する環境を整えることを意識しましょう。大切なのは、高齢者自身が自ら手を伸ばして、食べたくなるような環境づくりです。

食材選び

野菜

高齢期になると歯がもろくなると同時に、嚥下(飲み込み)能力が低下します。よって、固い食べ物よりも柔らかく、嚥下(えんげ)しやすい食材を選びましょう。

窒息事故の要因となる食材

消費者庁の発表によると、高齢者の窒息事故の要因となったものは、食品では、「おかゆ類」、「餅」、「御飯」など、主食類が多くなっています。
そのうち、「餅」については、1月に年間の緊急搬送者数の約3割と、最も多く発生していること指摘しています。

高齢期の状態に合わせた食材を

本人の嗜好を考えるのはとても重要です。しかし、食材選びの前に本人の嚥下能力を充分に把握しなければいけません。食材は嚥下能力に考慮したうえで、その人の嗜好に合った食材を選びましょう。

環境設定と工夫

先述のとおり、同じ食材でもシーンや環境を良い方に整えれば、食事がより美味しく、楽しいものになります。

ここでは、食事を美味しく、楽しくするうえで環境を設定する方法や、ちょっとした一工夫について説明します。

道具の工夫

食事は自力で、自分の口から、自分のペースで食べるから美味しく感じるものです。加齢でお箸が使えなくなっても、福祉用具を活用しましょう。

福祉用具の食器は高齢者が食事をしやすいようさまざまな工夫がしてありますお皿の裏に滑り止めを付けたり、関節リウマチの人でも持てるスプーン、内部に角度を付けてすくいやすい形状にしているなどです。

その他、取っ手付きのお椀や、お箸が1本ずつあるのではなく、ピンセットのように2つセットになって使えるものがあります。

道具に少しの工夫や配慮を加えるだけで、食事がしやすくなります。自分の力で食事を取ることができるように、福祉用具を活用しましょう。

明るさの工夫

生活上の行為の内容に応じて、必要な明るさは異なります。JIS基準では、調理台・流し台・食卓で必要となる明るさは、200~500ルクスとしています。ルクスとは明るさの単位です。200~500ルクスはスーパーや雑貨店とおおよそ同じ明るさとなります。

宇部フロンティア大学人間健康学部看護学科の発表によると、「室内照度が高齢者の食欲増進および、よりよい食事環境設定につながる可能性があると考えられる」とされています。
適度な明るさは、食事を美味しそうに見せるうえで必要不可欠です。決して疎かにせずに気をつけたい点です。

会話の工夫

ただ単に食べ物を口に運んで終わりでは、あまりに味気ない食事となってしまいます。その時の雰囲気に合わせて会話が弾むように配慮しましょう。

但し、高齢者が咀嚼しているときに話しかけると、誤嚥の原因になるため注意が必要です。また、食事の時に適切ではない話題、イライラさせるような話題は避けるべきです。

香りの工夫

パン屋さんの前を通って感じられるパンの焼けた美味しそうな香り。鰻屋さんの近くを通ると感じる、甘辛い香ばしいにおい。これらの香りが、より一層、私たちの食欲を引き出します。香りは食事の美味しさを予感・期待させる重要な要素です。

食事を待っている間は、適度の香りを効かせて、これから配膳されるものの期待値を上げると、食事を美味しくする、楽しむことに繋がります。

温度の工夫

いつも飲んでいるお味噌汁でも、温かいうちは「美味しい」と感じるのに、冷めてしまっては「しょっぱい」と感じることがあります。同じ食べ物でも、その温度によって感じ方が異なるためです。
食材によって、温かい方が美味しい食べ物と、冷たい方が美味しい食べものと、常温が美味しい食べ物とありますので、提供する際の温度設定には充分に配慮しましょう。
食べ物を美味しいと感じる温度は、温かいものは60℃~70℃。冷たいものは5℃~12℃が適温と言われています。

寝食分離

寝る場所と食事を取る場所は分けたほうが良いでしょう。布団の埃等が舞うなかで食事を取ることは、衛生面から見て不適当です。

また、生活のリズムを明確にするため、食べるスペースと寝るスペースは分けた方が良いとされています。

献立に興味を持たせる

ヘルシー料理

月ごと、あるいは週ごとの献立を作成して情報を提供すると、食事に興味を持ってくれるかも知れません。好きな料理があれば、その日が来るまでの間、食材や調理方法がイメージできるようになり、食欲増進・期待度向上につながります。

また献立表の作成は、できるだけ高齢者と一緒に行いましょう。互いに食事に関心を持ち食事への意識が高まります。場合によっては献立検討の段階から参加することが理想です。

バイキング形式・選択食

自宅での実施は難しいのですが、ある高齢者施設では、お昼にバイキング形式の食事を提供することがあるそうです。利用者が「ホテルのバイキングみたい」や、「こんな豪華なランチは初めて」と感触が良いとのこと。

自分の食べたいメニューを選ぶ選択食という方法もあります。例えば、Aランチ・Bランチと2種類のランチを準備しておき、高齢者がどちらかを選ぶというシンプルなものです。

もちろん、高齢者自身の嚥下能力などを充分に考慮して、食事を提供しましょう。

行事食

季節ごと、行事ごとの食事を準備すると、普段とは違う食材・雰囲気で食事を楽しむことができます。お花見やピクニックなどですね。季節・行事ごとに毎回食事を準備することが難しい場合は、外注の行事弁当も検討しましょう。お金はかかりますが、調理する必要はありませんし、出前であれば取りに行く手間はかかりません。

注意点

 

これまでの記述内容を踏まえたうえで、高齢者の食事で気をつけるべきポイントを記しておきます。

食事する姿勢

せっかく美味しい食事を作っても、食べる姿勢が悪いと誤嚥の危険性が増します。本人の体調を考慮しながら、できるだけ食べやすい姿勢で食事をするように心がけましょう。

座って食べる場合

足がしっかり床につくよう座りましょう。膝を曲げたとき90度になるようにすると安定します。

ベッド上で食べる場合

首を少し前にまげて、背中と後頭部が直線にならないようにタオルやクッションを入れて安定させます。背もたれは40~80度に調整しましょう。直立に近づけることで、誤嚥のリスクを減らせます。

食事の偏り

一人暮らしが続くと、どうしても食事の偏りが顕著になり、栄養バランスが崩れてしまいがちです。
厚生労働省は「一般に高齢になると食事の量が少なくなり、あっさりしたものを好むようになるため、食事に偏りが生じやすくなる」と指摘しました。そうなってしまうと、タンパク質やエネルギーが不足して、低栄養状態になるリスクが高まります。

ただ単に空腹を満たすだけではなく、摂取すべき栄養素を踏まえがら、食事をすることが求められます。

最後に

いくら歳を取ったとしても、自分の力で自分の口で美味しい食事をしたいと思うものです。しかし、高齢期では身体的能力の低下等が原因で、栄養や楽しさを踏まえた食事が疎かになりがちです。
栄養を取りながら、美味しく、楽しく食事ができるようにするために、私たち周りの人間が、ちょっとした工夫や配慮をするようにしましょう。

参考:

公益社団法人

消費者庁

宇部フロンティア大学人間健康学部看護学科

厚生労働省:生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」

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※掲載情報につきましては、 2020年04月11日公開時点のものです。 施設情報・制度・資格などにつきましては、改定などにより最新のものでない可能性があります。必ず各機関や団体、各施設などにご確認ください。